やよい軒にいた毛むくじゃらの男

やよい軒に定食を食べに行った。定食の中ではしょうが焼き定食が一番安く、特に食べたいものがあったわけでもないので注文した。

食事が運ばれたタイミングで、私の隣に毛むくじゃらの男が座った。なぜ毛むくじゃらと呼ぶかというと、シャツを捲った結果見えている前腕が、毛に溢れていたからである。サラリーマン風の男で、リュックサックは黒でいかにもビジネス用な感じ。

私もその男もテーブル席で、隣り合っていた。テーブル席はソファー側と椅子側があるタイプで、男はソファー側に座ると、リュックサックを向かいの椅子の上に丁寧に置いた。

隣に客が来ることなどあまりにも当たり前なことなので普通は気にもとめないが、その毛むくじゃらの男が発する汗臭さに、思わずうつむいた。しょうが焼きの匂いで上塗りしないと、正面を向いて咀嚼していては男の汗の臭いが襲ってくるのである。

とてつもなく暑い夏。この毛むくじゃらの男はもしかすると外回りの営業で、今日は1日中外にいたのかもしれない。仕事の忙しさとは関係なく照りつけてくる日光は、男の汗がこれほど出ていることを知っているのだろうか。おそらく仕事をしてかいた汗であろう汗で覆われた男を「臭う」と言うのは気が引ける。しかし、臭ってきてしまうのだから、仕方がない。

私のしょうが焼き定食はすでに届いてしまったので、ここから席を移動する勇気はない。毛むくじゃらの汗が臭いからといって席を移動するなんて、かわいそうじゃないか。きっと彼に罪はない。

しょうが焼きに集中すればいい話だ。

私はしょうが焼きを顔に近づけて、しょうが焼きの匂いで鼻を満たし、完食したのだった。

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